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福島地方裁判所 平成5年(行ウ)2号 判決 1999年4月27日

原告

米倉正裕

外六名

原告兼右原告ら七名及び原告広田次男訴訟代理人弁護士

太田雅利

原告兼右原告ら八名訴訟代理人弁護士

広田次男

右原告ら九名訴訟代理人弁護士

安田純治

鵜川隆明

荒木貢

大堀有介

被告

福島県知事

佐藤栄佐久

右訴訟代理人弁護士

今井吉之

右指定代理人

里見修平

外二名

被告

株式会社日本ロイヤルクラブ

右代表者代表取締役

小針美雄

右訴訟代理人弁護士

滝田三良

右訴訟復代理人弁護士

石井一志

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告佐藤栄佐久福島県知事(以下「被告県知事」という。)が別紙工事目録記載の三ツ森トンネル(以下「本件トンネル」という。)工事(以下「本件工事」という。)に関して支出した費用(以下「本件工事費用」という。)について、被告県知事が被告株式会社日本ロイヤルクラブ(以下「被告会社」という。)に対して、道路法五八条一項、同法六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づく負担をさせることを怠っていること又は不当利得返還請求することを怠っていることが違法であることを確認する。

二  被告会社は、福島県に対し、金八億七九七八万七九三七円及びこれに対する平成五年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、福島県が県道石筵・本宮線(以下「本件県道」という。)改良工事(以下「本件県道改良工事」という。)の一環として本件工事を行ったことが被告会社に対する便宜供与に当たるとして、原告らが、被告県知事において被告会社に対し、本件工事費用について、道路法五八条一項、同法六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づき負担させることを怠っている事実又は不当利得返還請求することを怠っている事実は違法であると主張して、被告県知事に対して、右各怠る事実の違法確認を選択的に求めるとともに、被告会社に対し、福島県に代位して、不当利得返還請求権(民法七〇三条、七〇四条)に基づいて右工事費用の返還を請求しているのに対して、被告らが、原告らの主張する各怠る事実は財務会計行為に当たらないものであって不適法であるとか、被告会社は道路法若しくは地方自治法の原因者若しくは受益者ではなく、被告会社が本件工事費用若しくは負担金について、法律上の原因なく利得していることはないと反論している事案である。

二  前提となる事実

1  当事者

原告らは福島県の住民、被告会社は大玉VIPロイヤルカントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)等のゴルフ場経営等を目的とする株式会社である(争いはない。)。

2  本件県道改良工事

本件県道は、福島県郡山市熱海町石筵と同県安達郡本宮町とを結ぶ、大正一二年四月一日に県道認定された道路である。

本件県道は、本宮町舘野地内の国道四号線を本宮町側の起点として西方に延びており、同起点から東北自動車道、県道本宮・土湯温泉線から分岐した大橋・五百川停車場線と順次交差して、更に西方に延びて、本件ゴルフ場及び同県安達郡大玉村大字玉井地内の三ツ橋貯水池付近を通って、県道岳温泉・大玉線と交差する地点に達するまでの交通可能区間、同地区から右石筵地内の離山橋近辺までの区間延長約三五〇〇メートルの交通不能区間、右離山橋近辺から郡山市熱海町石筵までの交通可能区間により構成されており、その総延長は15.258キロメートルである。

本件県道改良工事は、本件県道のうち右交通不能区間を含む道路幅員が約三メートルで屈曲が著しい総延長約六二〇〇メートルの一連区間の整備を内容とした次の概要の改良工事である。

幅員 車道六メートル(全幅員八メートル)

概算事業費 金六一億四七〇〇万円

主要構造物 トンネル三カ所、橋梁七カ所

本件工事は、本件県道改良工事の一環をなすものであり、安達郡大玉村大字玉井字長井坂地内に延長二五七メートルの本件トンネルを開設する工事及びその付随工事である。

本件県道の改良には、本件工事と関連して、右地内の本件県道の改良工事前の従来のルート(以下「旧道」という。)を廃道として、本件トンネルを含む新しいルート(以下「現道」という。)に本件県道を開設することが含まれていた。(以上、甲二、弁論の全趣旨)

3  被告会社による本件ゴルフ場の開発等

(一) 被告会社は、昭和六二年一〇月五日、福島県大規模土地取引事前指導要綱に基づき、福島県県北行政事務所を経由して、被告県知事に対して、同県安達郡大玉村大字玉井字南上台所在の土地(以下「本件土地」という。)について、大規模開発を行い造成後、本件ゴルフ場として使用するとの利用目的を記載した大規模土地取引事前指導申出書を提出し、同申出書は、同日、受理された。同申出書添付の土地利用計画図では、本件ゴルフ場のコースが旧道に重なるような配置となっていた。(乙一、四、丙二)

(二) 被告会社は、昭和六三年一月二一日、福島県県北行政事務所を経由して、被告県知事に対し、大規模土地取引事前指導申出書変更届を提出し、同変更届は、同日、受理された。この時点での添付図面では、本件ゴルフ場のコースは旧道と重ならないように配置されていた。(甲二〇、乙二)

(三) 福島県は、同年七月一二日、大玉村において、道路事業基本計画説明会を行った(弁論の全趣旨)。

建設大臣は被告県知事に対して、同日、本件県道改良工事に対する国庫補助が決定された旨通知した(乙一〇)。

(四) 福島県の都市計画区域内の大規模開発に関する要綱七条は、都市計画区域内において五ヘクタール以上の開発行為をしようとする者は、市町村長に対して、大規模開発事前審査願を提出し、実施設計書により、事前審査を受けなければならないものと定めている。

そこで、被告会社は大玉村長に対して、平成元年三月二五日、本件ゴルフ場の開発行為の設計等について、大規模開発事前審査願を提出し、同審査願は、同日、受理された。(乙四、弁論の全趣旨)

大玉村長は被告県知事に対し、同年五月八日、福島建設事務所を経由して、前記の大規模開発事前審査願について、総合所見として大規模開発をやむを得ないとする意見を付して進達し、同進達は、同日、福島建設事務所長に受理された(乙一七の五、六)。

(五) 被告県知事は被告会社に対し、同年六月一三日付けで、被告会社の前記大規模土地取引事前指導申出について、国土利用計画法二四条に照らし、内容審査を行ったところ、右申出は同規定には該当しないと判断したとして、被告会社に対して同法二三条一項に基づく届出を行うことを促す審査結果を通知した。

被告県知事は右通知に、次の内容を含む留意事項を付した。

開発区域には、本件県道が存在するため、福島建設事務所と十分協議し、道路構造の保全及び安全な道路交通の確保を図ること、被告県知事から都市計画法附則四項に基づく開発許可を受けること(「都市計画区域内の大規模開発に関する要綱」に基づき事前審査が必要である。)(乙三)

(六) 道路管理者と被告会社とは、同月一五日、事業調整を行った(甲二、弁論の全趣旨)。

(七) 被告会社は福島林業事務所に対して、同年九月一六日、林地開発許可を申請した(甲二、一三、二〇、弁論の全趣旨)。

(八) 福島建設事務所長は被告県知事に対し、同年九月一八日、被告会社がした前記大規模開発事前審査願について、総合評価として被告会社願出にかかる開発をやむを得ないとする意見を付して進達し、同日受理された(乙一七の三、四)。

福島県土木部長は福島建設事務所長に対し、同年一一月六日、被告会社がした前記大規模開発事前審査願について、支障ないので、申請書類を整備した上で、申請するように被告会社に対して指導するようにとの趣旨の回答をした(乙五、一七の一、二)。

福島建設事務所長は大玉村長に対し、同月八日、大規模開発事前審査願について、福島県土木部長が右のとおり回答した旨通知した(乙五)。

(九) 都市計画法二九条、同法附則四項は、都市計画区域内において開発行為をしようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないと定めている。

そこで、被告会社は被告県知事に対して、同月九日、右各法条に基づく開発許可申請書を提出し、大玉村役場に、同月一〇日、受理された。開発区域は、同県安達郡大玉村大字玉井字南上台一番地一地七二筆外180万8576.01平方メートルとされていた。同申請書添付の土地利用計画図は、旧道を前提として、旧道と本件ゴルフ場のコースが重複しないように記載されていた(乙六、丙三)。

大玉村長は福島建設事務所長に対し、同月二一日、被告会社がした前記開発許可申請について、問題がない旨の意見を付して進達し、福島建設事務所に同月三〇日受理された(乙一八の四)。

福島建設事務所長は被告県知事に対して、同年一二月一四日、被告会社のした開発許可申請について、支障なしとの審査意見を付して進達し、福島県に同日受理された(乙一八の三)。

(一〇) 被告県知事は被告会社に対し、同月二二日付けで、前記の都市計画法二九条に基づく開発許可申請を許可した。

右開発行為の内容は、次のとおりである。

目的 ゴルフ場造成(二七ホール)

所在地 大玉村大字玉井字南上台

開発区域面積 180万8567.01平方メートル

予定建築物 クラブハウス、ホテル、管理棟他

被告会社は、同月二二日、林地開発申請を許可された。

(以上、乙七、一八の一、二、弁論の全趣旨)

(一一) 被告会社は被告県知事に対し、平成二年一一月一六日、都市計画法二九条、同法附則四項に基づき、開発行為変更許可申請書を提出し、大玉村役場に同日受理された。同変更により、開発区域は、同県安達郡大玉村大字玉井字南上台一番一他七五筆等合計182万2223.69平方メートル等と変更された。右変更許可申請書添付の土地利用計画図は、本件トンネルを前提としたコースレイアウトが記載されていた。(乙八、丙四)

大玉村長は福島建設事務所長に対し、同年一二月一九日、被告会社がした右開発行為変更許可申請について問題はないので許可願いたい旨の意見を付して、右変更許可申請を進達し、福島建設事務所は、同月二八日、これを受理した。(乙一九の六)

福島建設事務所長は被告県知事に対し、平成三年三月四日、被告会社の右開発行為変更許可申請について、支障なしとの審査意見を付して進達し、同日福島県に受理された(乙第一九号証の四、五)。

(一二) 被告県知事は被告会社に対し、同年五月七日、前記の開発行為変更許可申請を許可した。

右開発行為変更の内容は、概略次のとおりである。

開発区域 約180.8ヘクタールから約182.2ヘクタールに増加した。

コースレイアウト 本件県道改良工事に伴い、二一番ホールないし二四番ホールのコースレイアウトが一部変更された。

調整池 六カ所から五カ所に減少した。

予定建築物の述床面積

約一万三八九九平方メートルから約2万1916.88平方メートルに増加させた。

工区 国道改良に伴い、第一工区と第二工区とに区分した。

工期 第一工区は平成二年九月三〇日から平成四年九月三〇日まで。第二工区は平成二年九月三〇日から平成五年九月三〇日まで。

右開発行為変更許可申請添付の土地利用計画図における本件ゴルフ場のコースレイアウトは現県道の廃道敷地の一部を、被告が交換取得することを前提として作成されていた。(以上、乙九、一九の一ないし三、弁論の全趣旨)

(一三) 福島県は被告会社との間において、平成三年一一月一三日、本件県道敷地面積合計4624.04平方メートル(評価額金九五七万一七六一円)と被告会社が所有する山林面積合計8323.28平方メートル(評価額金九五七万一七七二円)とを交換し、被告会社が評価額の差額金一一円を放棄する旨の交換契約を締結した(弁論の全趣旨)。

(一四) 福島県は被告会社から、平成四年九月四日、被告会社所有の山林面積1万6634.75平方メートルを、代金額金一九一二万九九六〇円の約定で購入する売買契約を締結した(弁論の全趣旨)。

4  監査請求

原告らは福島県監査委員に対し、平成四年一一月一八日、被告県知事が本件県道の大玉村地内における本件工事に関して平成四年度の予算を執行してはならない、被告県知事は被告会社に対し、金一〇億円の返還を求めよとする、住民監査(以下「本件住民監査請求」という。)を請求した(争いない。)。

福島県監査委員は原告らに対し、平成五年一月二二日付けで、本件住民監査請求に理由がない旨の監査結果を通知した(争いない。)。

5  原告らは、同年二月二〇日、当庁に対し、本件訴えを提起した(弁論の全趣旨)。

6  本件工事は、平成三年度から、大玉村側から施工が開始され、平成五年度に完成し、平成六年四月五日から、大玉村大字玉井字長井坂五〇番二九地先から大字玉井字北上台二番二地先までの区間が供用開始された(弁論の全趣旨)。

三  争点

1  本件訴えのうち、被告県知事が被告会社に対して、本件工事費用について、道路法五八条一項、六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づく負担金若しくは分担金を負担させることを怠る事実及び不当利得返還請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求める部分は、地方自治法二四二条の二第一項、二四二条一項のいわゆる財務会計行為を対象とする訴えといえるか。

(一) 原告ら

被告県知事が被告会社に対して、本件工事費用を、道路法五八条一項、六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づき、原因者若しくは受益者に負担させる行為及び不当利得返還請求する行為は、財務的処理を直接の目的とする財務会計上の財産管理行為であるから、財務会計行為であるといえ、これらの懈怠事実の違法確認を対象とする本件訴えは適法である。

すなわち、地方自治法二四二条の二第一項は、住民訴訟の対象となる事項として、同法二四二条一項が定める「違法に公金の賦課若しくは徴収を怠る事実」及び「違法に財産の管理を怠る事実」を掲げている。

右の「財産」とは、同法二三七条一項に規定する「財産」と同義であると解されるところ、同条項は、「財産」には「公有財産」及び「債権」が含まれる旨を定めている。そして、右「公有財産」には、同法二三八条一項一号の「不動産」及び同法二四四条の「公の施設」が含まれると解され、したがって、本件県道のごとき道路も不動産ないし公の施設として右「財産」に含まれると解される。次に、同法二四〇条一項は、右「債権」について、「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利」と定めており、これには普通地方公共団体が有する不当利得返還請求権も含まれると解される。

ところで、被告県知事が被告会社に対して、県道が造られ供用が開始された後の本件県道の工事費用について、道路法五八条一項、六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づき原因者負担金若しくは受益者負担金を負担させること若しくは不当利得返還請求権を行使することは、道路法に基づく県道などの路線の認定や廃止、区域の決定、変更、若しくは供用の開始などの非財務会計行為とは異なり、財産の管理行為であるから財務会計行為に該当する。

したがって、本件訴えは、被告県知事が、本件県道及び不当利得返還請求権の管理を怠る事実の違法を確認するものであり、財務会計上の行為を対象にした訴えである。

(二) 被告県知事

地方自治法二四二条一項、二四二条の二第一項は、住民訴訟の対象を財務会計上の行為又は事実に限定していることから、非財務的事項の違法は住民訴訟によって争うことはできない。

そして、道路管理者が道路行政担当者として、道路整備計画の円滑な遂行、実現を図るという道路建設行政の見地から行う道路管理上の行為は財務会計上の財産管理行為には該当しない。すなわち、道路法にいわゆる道路の管理とは、道路管理者が、道路を、一般交通の用に供し、公の施設としての本来の機能を発揮させるためにする一切の作用を指称する。そして、道路の管理とは、道路の新設、改良、災害復旧、維持及び修繕等を行ったり、これを他の者に行わせたり、道路の占有を許可したり、道路のための公用負担を課して、道路の目的に対する障害の防止及び除去をすることなどをいう。これらの作用は、原則として、道路管理者が行うべきところ、これらの作用を行う道路管理者の権能を道路管理権という。道路管理権は、道路の敷地所有権から完全に独立した別個の機能であって、道路をその本来の目的に従って一般交通の用に供するために法律上認められた特殊な包括的権能であると解される。

これに対し、住民訴訟の対象である財産の取得、管理及び処分とは、財産的価値の客体としての道路の所有権の取得、管理及び処分という財務会計行為上の行為を指称する。

したがって、道路管理者が道路法五八条一項又は六一条一項に基づいて本件工事費用を原因者又は受益者に負担させる行為は、公用負担の一種であって右の道路管理上の行為であるから、住民訴訟の財務会計上の行為に該当しない。

また、道路法は地方自治法の特別法であるから、「特別法は一般法を破る」の原則により、道路法の原因者負担金及び受益者負担金の適用がない場合には、地方自治法二二四条の適用もない。

したがって、被告県知事が被告会社に対して、本件工事費用を、道路法五八条一項又は六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づき負担させることを怠る事実の違法確認を求める本件訴えは、住民訴訟の対象とはならないから不適法である。

2  本件訴えのうちの怠る事実の違法確認を求める部分には、訴えの利益があるか。

(一) 原告ら

被告県知事は、被告会社に対し、本訴の提起後においても、道路法五八条一項、六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づき、本件工事費用を、被告会社に対して負担させうるし、不当利得返還請求もなしうるのであって、原告らの被告県知事に対する怠る事実の違法確認の訴えはなお訴えの利益を失わない。

(二) 被告県知事

地方自治法二四二条の二第一項三号の定める怠る事実の違法確認の請求は、当該事実を行うべき者が従来の態度を改め当該事実を行うことが可能な場合に限り許され、その可能性が存在しなくなった場合においては、かかる怠る事実の違法確認の訴えは訴えの利益を失うと解すべきである。

本件においては、原告らが福島県に代位して、被告会社に対して、福島県が本件工事に関して支出した費用の支払を求める訴訟を提起している以上、被告県知事としては、もはや被告会社に対してその請求をする余地はない。

したがって、原告らの被告県知事に対して、怠る事実の違法確認を求める部分は訴えの利益を欠き不適法である。

3  被告会社は、本件工事について、道路法五八条一項の原因者、同法六一条一項若しくは地方自治法二二四条の受益者に該当するか。被告会社は、本件工事費用につき法律上の原因なく利得したか。

(一) 原告ら

(1) 被告県知事と被告会社とは、昭和六二年ころ、本件県道改良工事に関して談合を重ね、被告県知事は、平成三年ころから、被告会社に対して便宜を供与するため、本件工事費用を支出した。

すなわち、被告県知事は、本件県道改良工事について、本件工事を実施するよりも、本件トンネルが開設されたルートを開削する方式により実施した方がより安価に本件県道の改良を行うことができたのに、被告会社において本件ゴルフ場をその計画どおりに開設する便宜を供与するために、本件工事を実施し、本件工事費用を支出したものである。

したがって、被告会社は本件工事について、道路法五八条一項の原因者に該当する。

(2) また、道路法六一条一項の「著しく利益を受ける者」及び地方自治法二二四条の「特に利益を受ける者」とは、一般人の受ける利益と比較して特別の受益があり、しかも、その受益が著しい者をいうと解されている。

そして、被告会社は、本件県道の改良が、本件トンネルが開設されたルートを開削する方式で実施された場合には、本件県道が本件ゴルフ場のコース内を貫通することとなり、ゴルフコースのレイアウトが制限され、ゴルフ場の利用客は車両に気を配りながら県道を横断しなければならなくなり、ネットやフェンスの設置も必要となるなど、当初有していた本件ゴルフ場開発計画を見直す必要に迫られたのに、実際には、本件県道の改良が、本件トンネルを開設する方式で実施されたことにより、本件トンネル上の地表面を利用することが可能となり、本件ゴルフ場開発を計画どおり実現することができた。これにより被告会社が受けた利益は、道路法六一条一項の「著しく利益を受け」たことに該当するほか、地方自治法二二四条の「特に利益を受け」たことに該当する。したがって、被告会社は、道路法六一条一項の道路工事により著しく利益を受ける者、地方自治法二二四条の特に利益を受ける者に該当する。

(3) 以上の経緯に照らせば、被告県知事が被告会社に対して、右各法条に基づいて本件工事費用(少なくとも開削工事費との差額分)を負担させることを怠っていること若しくは右費用について不当利得返還請求を怠っていることは、被告県知事の裁量を著しく逸脱するものであり違法である。

(4) 被告会社は、右のとおり、法律上の原因なくして本件工事費用(右(3)の道路法若しくは地方自治法上の負担額)相当額について利益を受け、福島県は、同額の損失を受けている。

(二) 被告ら

(1) 道路法に基づく道路の開設、改良は、一般に、路線の認定(同法七条一項)、区域の決定及びその公示(同法一八条一項)、道路管理者におけるその敷地等の上の所有権その他の権原の取得、必要な工事による道路としての形体の整備、供用の公示(同法一八条二項)の確定を、順次経て行われる。また、被告県知事が県道の路線を認定しようとする場合には、予め県議会の議決を経なければならない(同法七条二項)。更に、県道の開設、改良工事は、県内の道路網の整備を図り、交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進するために行うものであり、一企業のために談合による県道の改良工事を行うようなことは全くない。

県道の路線認定は、被告県知事が行い(同法七条一項)、被告県知事の自由裁量に属する。また、県道を開設するかどうか、その道路をどのような構造とするかなどの決定は関係行政当局の合理的な判断に基づく広範囲な裁量に委ねられている。

被告県知事は、本件工事を含む本件県道改良工事について、ルートの選定及び工法の決定等の全てにおいて、施工性、経済性等について綿密周到な検討を行い、将来を見越した総合的な判断をして、決定したものである。本件県道改良工事は、福島県内の道路網の整備を図り、交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進するものである(道路法一条)。そして、道路の新設、改良等の道路の管理に関する費用は、原則として道路管理者の負担とされており(同法四九条、国の補助については同法五六条)、本件県道は、福島県の営造物であり、その管理事務も福島県の事務とされている(地方自治法二条三項二号)ことから、本件県道の管理に関する費用は、福島県が負担すべきものである。よって、本件工事を含む本件県道改良工事に関する費用について、国庫補助による県費をもって負担することは何ら違法ではない。

したがって、被告会社に対して、本件工事に関する費用について、道路法五八条一項、六一条一項、地方自治法二二四条及び民法七〇三条、七〇四条を適用することはできない。

(2) 道路法五八条一項は、「道路管理者は、他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については、その必要を生じた限度において、他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を負担させるものとする。」と定めている。

しかし、本件工事及びこれを含む本件県道改良工事は、道路管理者が福島県内の道路網の整備を図り、交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進させるために行った工事(同法一条)であり、被告会社の本件ゴルフ場建設のためにその必要を生じた工事ではない。

原因者負担金の負担義務者は、本件県道の改良工事を必要ならしめる原因をなした者であるところ、被告会社は、本件県道改良工事を必要ならしめる何らの原因も生じさせてはいない。

したがって、被告県知事は、被告会社に対して、同法五八条一項に基づき費用の負担をさせることはできない。

(3) 道路法六一条一項は、「道路管理者は、道路に関する工事に因って著しく利益を受ける者がある場合においては、その利益を受ける限度において、当該工事に要する費用の一部を負担させることができる。」と定め、同条二項は、「前項の場合において、負担金の徴収を受ける者の範囲及びその徴収方法については、道路管理者である地方公共団体の条例で定める。」と定めている。

しかし、被告会社は、一般公衆と同じく、道路が公共用物として一般公衆に供用される結果の反射的利益として、道路を使用する自由を有するにとどまり、本件工事によって著しく利益を受ける者には該当しないし、福島県には道路法六一条二項の条例が定められていないので、被告県知事は被告会社に対して、同法六一条一項の負担金を徴収することはできない。

(4) 地方自治法二二四条は、「普通地方公共団体は、政令で定める場合を除くほか、数人又は普通地方公共団体の一部に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため、当該事件により特に利益を受ける者から、その受益の限度に応じて分担金を徴収することができる。」と定め、同法九六条一項四号は、「普通地方公共団体の議会は、分担金の徴収に関することを議決しなければならない。」と定めるほか、同法二二八条一項は、「分担金に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。」と定めている。

しかし、被告会社は、本件工事により特に利益を受ける者に該当しないし、福島県議会は、同法二二四条の分担金の徴収について、同法九六条一項四号の議決をしておらず、福島県には同法二二八条が定める条例は定められていない。

したがって、被告県知事は被告会社に対して、同法二二四条の分担金を徴収することはできない。

(5) 以上のとおり、被告会社は、道路法五八条一項の原因者又は同法六一条一項若しくは地方自治法二二四条の受益者にはいずれも該当しないので、福島県には被告会社に対する右各法条による各金銭請求権は発生しない。したがって、被告会社は法律上の原因なく右各金銭債務を免れたことにはならないので、福島県の被告会社に対する不当利得返還請求権も発生しない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

地方公共団体が、道路法五八条一項、六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づき、負担金等を負担者に対して負担させ、負担者に対して未徴収の負担金等と同額の金員につき不当利得返還請求することは、地方自治法二四二条一項の定める公金の賦課、徴収若しくは財産の管理に該当する財務会計上の行為と解するのが相当である。

なぜなら、道路法五八条一項、六一条一項、地方自治法二二四条に基づく負担金等は地方公共団体の権力的作用に基づいて、地方公共団体が原因者等に対して負担させることにより発生する金銭債権であり、不当利得返還請求権としての金員請求権は、地方自治法二四〇条一項の定める「債権」に該当し、同法二三七条一項、同法二四二条一項の定める「財産」に包含されると解されるからであり、また、地方公共団体が、右各規定に基づき、道路工事の原因となった者若しくは道路工事により著しく利益を受ける者又は事件により特に利益を受ける者がある場合に、これらの者に右道路工事又は右事件の費用を負担させることができることとされたのは、地方公共団体の財源の効率的な使用を確保し、地方公共団体の財務を衡平の観念に沿うものとする趣旨であると解され、かかる負担の適正を確保することは地方公共団体の財務会計の適正を確保する上において必要であると解するのが相当だからである。

したがって、被告県知事が、被告会社に対して、本件工事費用について、道路法五八条一項、六一条一項若しくは地方自治法二二四条に基づき負担金等を負担させ、未徴収金につき不当利得返還請求することは、公金の賦課、徴収若しくは財産の管理に該当すると解され、これらは、いずれも財務会計行為であって、単なる道路管理行政上の行為ではないと解するのが相当である。

よって、被告らの本案前の主張は失当である。

二  争点2について

地方自治法二四二条の二第一項三号に基づく怠る事実の違法確認請求は、同条項四号に基づく右怠る事実の内容である請求の代位請求が同一訴訟において併合提起されていることを理由として訴えの利益を失うものではないと解するのが相当である。

なぜなら、同条項各号の規定する各請求が、同一訴訟において訴訟上の請求として複数定立される場合があることは当然に予想されるところ、同法は、かかる複数請求の間に優先順位を定めず、かつ、複数請求を許さない定めもしていないほか、違法な財務会計行為の是正手段として、判決の拘束力により地方公共団体の権利行使の確保を図ろうとする怠る事実の違法確認請求と代位請求とのいずれが有効適切であるかは個々の事案により異なるのであって、いずれの請求を選択するか又は両方の請求を行うかは、訴えを提起する住民の意思に委ねられていると解されるからである。

よって、被告らの本案前の主張は失当である。

三  争点3について

1  甲二、一三、一七、一八の一、二、二〇ないし二二、乙一ないし一五、一六の一、二、一七の一ないし七、一八の一ないし七、一九の一ないし一三、二〇ないし二八、丙一ないし四、証人石倉三昌(以下「石倉」という。)、同五十嵐和美(以下「五十嵐」という。)及び同江花亮(以下「江花」という。)の各証言、前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

(一) 本件県道は、福島県郡山市熱海町石筵地内から同県安達郡本宮町舘野地内まで総延長15.258キロメートルの道路であり、大正一二年四月一日に県道として認定された。

本件県道は、平成三年四月一日当時においてもなお改良率28.8パーセントであって、同県郡山市熱海町石筵地内の離山橋付近から同県安達郡大玉村大字玉井地内の三ツ森貯水池までの延長三五〇〇メートルの交通不能区間を含む道路幅員約三メートルの屈曲が著しい六二〇〇メートルの一連区間の整備が必要な状況にあった。

そこで、福島県は、昭和四八年ないし四九年ころから、本件県道改良工事に関して現地踏査に着手した。(以上、甲二、一三、石倉、弁論の全趣旨)

(二) 福島県は、本件県道のうち前記三ツ森貯水池付近から前記離山橋付近までの交通不能区間を解消するとともに、道路幅員約三メートルの屈曲が著しい六二〇〇メートルの一連区間の整備・改良により、本件県道が県道本宮・土湯温泉線(同路線から分岐した大橋・五百川停車場線)、県道中の沢・熱海線、国道一一五号と有機的に結合することによって、観光地である安達太良連峰を外周する道路網を形成して、これにより地域の振興及び活性化に資することを目的として、昭和五五年度から、本格的な計画策定に着手した(弁論の全趣旨)。

(三) 福島県は、本件県道改良工事の実施に当たって、本件県道のうち同県安達郡大玉村大字玉井地内を通る部分についての複数のルートを検討し、次のAないしCの三ルートが優れていると判断した。

Aルート(中央ルート)は、構造物(トンネル)を用いない土工を中心としたBルートと主として同趣旨であるが、BルートとCルートの中間に位置して土工量の軽減を意図した全体延長四〇〇〇メートルのルート案である。Bルートは、主として、既設の南側林道坂下線を利用し、土工を中心とした全体延長四一九〇メートルのルート案である。Cルートは、旧道を利用して、構造物(トンネル)を用いることも含む、全体延長三四五〇メートルのルート案である。

福島県は、施工性、経済性、維持管理等を総合的に検討して、Cルートが本件県道の旧道に最も近いルートであったのに対し、A及びBルートは旧道から遠かったこと、そのためCルートは施工が比較的容易であること、Cルートは旧道に近いことから改良工事が完了した部分から施工中であっても段階的に供用開始することができ、投資効果が現われやすいこと、Cルートは、旧道を使用することができるので、A及びBルートに比較して、新たに用地買収する必要性が少なくて済むこと、Cルートが概算の事業費も最も低額であったこと、CルートがA及びBルートに比較して平面曲線半径が大きく走行性に優れていること、道路延長が三案中最も短く経済性が良好であること、これらに対して、A及びBルートでは、工事完成まで事業効果が期待できないこと、工事用道路が必要となること、林道の付替えが必要となること等の諸点を考慮して、施工性、走行性、経済性等の面において、総合的にCルートが最も優れていると判断した。(乙一一ないし一三、石倉、弁論の全趣旨)

(四)(1) 福島県は、本件県道改良工事をCルートで行うことを決定した後、更に、これを基にして、Cルートの施工をトンネル方式で行うか、開削方式で行うかについて、平面線形及び縦断線形が影響する区間七〇〇メートルについて、次の各観点から、比較、検討を行った。

① 両方式の内容について

トンネル案は、全体延長七〇〇メートルで、取付区間が五〇〇メートル、トンネルが二〇〇メートルの改良、舗装である。最小半径は五〇〇メートルであり、最急勾配は五パーセントである。

開削案は、全体延長七〇七メートルで、最小半径三〇〇メートル、最急勾配は六パーセントである。

② 施工性について

トンネル案は、既設道路の付替道路が二〇〇メートル必要となるに過ぎないのに対し、開削案は、既設道路の付替道路が八五〇メートル必要となる。

③ 経済性(事業費(平成元年度算出による))について

トンネル案では、合計金約九億七〇〇〇万円の事業費が見込まれたところ、その内訳は、本工事費用として金約九億五〇〇〇万円、用地補償費として金約二〇〇〇万円であった。

開削案では、合計金約一〇億六〇〇〇万円の事業費が見込まれたところ、その内訳は、本工事費用として金約一〇億二〇〇〇万円、用地補償費として金約四〇〇〇万円であった。

④ 走行性について

トンネル案は、開削案に比較して、平面線形、縦断線形が優れているので、走行性が良い。

⑤ 維持管理について

トンネル案は、法面が短く、法面崩落の危険性が少なく、トンネル部は除雪の必要がなく、冬期の路面凍結の心配がないのに対し、開削案では、堀割となり、雪の吹溜まりが発生しやすいうえ、除雪が容易でない。

(2) 福島県は、以上の検討の結果、施工性、経済性、走行性、維持管理の便宜等を総合的に考慮して、トンネル案が優れていると判断して、これを採用することにした。(以上、乙一四ないし一六、石倉、弁論の全趣旨)

(五) 福島県は、昭和六三年七月ころまでに、本件県道改良工事の内容としての基本的なルートを、一部旧道を利用する本件トンネルほか二トンネルを含むルートに決定したほか、本件トンネルの開設等工事を含む、同県安達郡大玉大字玉井字長井坂五〇番二九から同村大字玉井字北上台二番二先までの区間についての改良工事を策定した(甲二、石倉、五十嵐、江花、弁論の全趣旨)。

(六) 本件県道改良工事は昭和六三年四月七日、国庫補助事業として採択された。福島県は遅くとも昭和六三年四月から同年六月ころまでの間に、Cルートに基づいて昭和六三年度の国庫補助事業実施設計を作成した。建設省に対する補助事業認可申請ヒヤリングは同月二四日行われた。福島県は同年七月一二日、補助金(負担金)交付申請をし、同日、国庫補助金の交付決定がされた。(甲二、乙一〇、弁論の全趣旨)

福島県は、右同日、大玉村において、玉井工区地元地権者に対して、Cルートを採用したこと及び本件トンネルを計画していることについて説明会を実施した。被告会社からは五十嵐が出席して、福島県による右説明を聞いた(甲二、五十嵐、弁論の全趣旨)。

福島県が策定した本件県道改良工事の全体計画の概要は次のとおりである。

総延長 六二〇〇メートル

幅員 車道部6.0メートル、全幅員8.0メートル

概算工事費 金六一億四七〇〇万円

主要構造物 トンネル三カ所、橋梁七橋(以上、甲二、弁論の全趣旨)。

(七) 福島県が策定した本件工事の概要は次のとおりであった。

延長 二五七メートル

幅員 車道幅員六メートル、全幅員八メートル

概算事業費 金九億五〇〇〇万円

施工年度 平成三年度から平成五年度まで(甲二、弁論の全趣旨)

(八) 福島県は平成二年六月二九日、本件トンネルについて設計を委託した。右設計は平成三年一月三〇日までに完了した(甲二、弁論の全趣旨)

(九) 福島県は平成三年九月一三日から本件工事を開始し、平成五年度までに完了した。

福島県は、本件県道改良工事について、当初、石筵側から開始することを考慮していたが、実際には大玉村側から開始することとした。これは、大玉村側の改良区間は、石筵側の改良区間と比較して工事延長が長く、橋梁等の構造物が多いことから、長期間の工事が予想されるため、全体の早期完成を図る上で、大玉村側よりの着工が技術的に有利であること、大玉村側は、周辺農地や山林等の生産活動及び三ツ森貯水池の管理にも利用されており、更に通称ミドルライン(旧玉の井林道であり、平成二年七月三日県道岳温泉・大玉線として認定された。)との連絡による観光周遊道路として早期に投資効果が出ることが期待されていたこと、大玉村役場及び周辺住民から、道路改良に対して強い要望があり、事業実施のための調査や用地の取得について、石筵側よりも協力が十分に期待できたこと、逆に石筵地区においては、本件県道改良のための用地取得と関連してほ場整備事業が実施されているところ、同事業の運用が、住民の非常に強い反対のためにうまくゆかず、用地取得ができなかったことの諸点を考慮したためであった。(以上、甲二、石倉、江花、弁論の全趣旨)

(一〇) 福島県が、本件工事を含む同県安達郡大玉村大字玉井字長井坂五〇番二九から同村大字玉井字北上台二番二先までの区間延長七〇〇メートルの区間全体の工事費として支出したのは、全体で金一二億三四六三万三三二三円であり、同県は本件工事の工事費用としては、右の内金九億九二六一万四〇九〇円を支出した(以上、乙二三、二六、石倉、弁論の全趣旨)。

(一一) 本件県道は、平成五年八月六日、整備計画全体延長六二〇〇メートルのうち大玉村大字玉井字長井坂五〇番二九地先から同村大字玉井字北上台二番二先までの区間一一六〇メートルの部分が供用開始となった。

本件県道は、平成六年四月五日、整備計画全体延長六二〇〇メートルのうち一八〇〇メートルの部分が供用開始となった。

これにより、右区間においては、これまで交通可能な状態であっても幅員が狭い上、屈曲が甚だしく大型車が通れない状況であったことが解消され、三ツ森貯水池までの通行が従前より安全かつスムーズになった。(以上、乙二三、石倉、弁論の全趣旨)

(一二) 被告会社は昭和六二年一〇月ころ、事業計画概要書を作成し、発表した。

右事業計画概要書には、本件ゴルフ場内への進入道路について、本件県道及び村道から分岐して新設すると記載されていた。(甲一七)

被告会社は同月五日ころまでに、福島県の関係部署から事前指導を受ける際のたたき台として本件ゴルフ場をプランニングする趣旨で本件ゴルフ場の計画図を作成し、同日、前記大規模土地取引事前指導申出書とともに同図面を同申出書に添付して提出した。同図面は、本件ゴルフ場への進入に旧道を利用する内容となっている反面、旧道がゴルフコースの一部を縦断する内容になっていた。福島県土木部長は福島建設事務所に対して、昭和六二年一二月二八日、開発は本件県道を無視していて好ましくない旨通知した。被告会社は昭和六三年一月二一日、前記大規模土地取引事前指導申出書変更届を提出したところ、同変更の内容は取得面積が増加したこと、土地利用目的について本件ゴルフ場開発区域と資産保有とを分けたこと及び本件ゴルフ場のコースレイアウトを旧道と重複しないものとすることであった。(甲二〇、乙一、二、丙二、五十嵐、弁論の全趣旨)

福島県は、被告会社の大規模土地取引事前指導及び開発許可申請の段階では、被告会社に対して、旧道を前提とした設計を行うように指導していた。これは、福島県において本件工事の計画はあるものの、用地買収及び本件工事の着工には時間を要することが予想されたため、その段階での開発行為についての事前指導及び許可申請については、本件工事前の状態を前提にして右事前指導申請若しくは開発許可申請を受けるのが通例であったことによる。(石倉、五十嵐、弁論の全趣旨)

(一三) 被告会社は、福島県が昭和六三年七月一二日に大玉村において開催した地元地権者に対する説明会において、本件県道について前記Cルートで改良工事が行われること及びトンネル化の計画があることの説明を受けた(五十嵐、弁論の全趣旨)。

(一四) 被告会社は平成元年三月前ころ、開発行為許可申請書に添付する土地利用計画図を作成し、同年一一月九日付けで、同図面を右申請書に添付して大玉村役場に提出した。同図面においては、旧道が本件ゴルフ場のゴルフコースを縦断しないように、旧道の存在を前提にした設計がされていた。被告会社は、右図面を作成した当時には、本件工事の大まかな内容は大体分かっていた。(丙三、五十嵐)

被告県知事としては、都市計画法三三一条一項に規定された開発許可基準に適合しており、かつその申請手続が同法に適合していれば開発行為を許可することとなる。また、福島県において、申請時に道路改良計画が存在する場合であっても、その実施計画の内容に未確定の要因を含む場合には、その実施計画を前提とした開発行為を許可することはできない。(甲二一、石倉、江花、弁論の全趣旨)

(一五) 被告会社は福島県との間において、都市計画法三二条に基づく協議を行い、平成元年六月一五日に、同協議は整った(弁論の全趣旨)。

(一六) 被告会社は平成二年一二月ころ、本件工事を前提とした開発行為変更許可を申請した。同申請書に添付した図面は、本件工事が行われることを前提として、旧道及び現道の上にコースがレイアウトされていた。(丙四、五十嵐、弁論の全趣旨)

2  なお、原告らが提出した、京都大学防災研究所教官中川鮮の意見書(甲三一の一、三三)には、開削工法による総工事金を金六億九九〇〇万円と算定し、福島県が算出した開削工法による総工事金約一〇億六〇〇〇万円(乙一六の二)と比較して相当に低額となり、福島県が算出したトンネル工法による総工事金約九億七〇〇〇万円(乙一六の一)と比較しても相当に低額となる旨の記載がある。しかしながら、右意見書は採用できない。その理由は以下のとおりである。

甲三三によれば、甲三一の一の価額算出過程について、「トンネル位置と開削位置とが同じであれば仮設道路の延長やその規模も同じであると考えるのが妥当である。したがって、開削案においてもトンネルと同じ位置、延長に限って比較する。開削案はトンネルと同じ位置、高さにおいて、乙一五等を参考にして、中川が独自に概略設計をし、工事数量を求めて工事費を算定した。県の単価に同意できるところは同じ単価を用い、明らかに差が認められる工種や別工種については単価を設定した。」との記載がある。したがって、右は、中川の独自の概略設計にその基礎を置いた算出であると認められるが、トンネル工法と開削工法の双方に要する工費の比較に当たっては、同一の条件、時期及び手法、同程度の精度をもって行わなければならないというべきであり、甲三一の一、三三の開削案の設計及びその工費の見積もり等は、本件トンネルのごとき詳細な設計に基づく実施レベルのものではないことから、適正な比較の対象にならないというべきである。

また、甲三三は、乙一四、一五及び一六の一、二によっても、本件工事の中には内容の詳細が不明である部分があることを認めつつ、その部分について、中川が独自に工事内容を設定した上でその工費を算出している部分があること、加えて、中川が独自に単価を設定した根拠が不明であること、具体的には、法勾配、切土の量、法面面積、用地面積の算出根拠が不明であること、更に、甲三三には福島県が計上している工事を不要であると判断している部分があるところ、そのように判断した理由が不明であることが認められる。

しかも、甲三三は、福島県の単価に同意できるところは、同じ単価を用いたとしており、その単価は乙一六の一、二であると考えられるところ、右に記載された単価は、福島県が平成元年度にトンネル案と開削案とを比較検討する際の設計において採用した単価である。したがって、平成三年度以降平成五年度までに、福島県が実際に本件トンネル工事を施工した時期の単価とは異なる。

以上の検討に照らせば、開削工法の工事費とトンネル工法の工事費とが、甲三一の一、三三の記載内容どおりであると認めるには足りない。

3  前記1で認定したとおり、福島県は、本件県道について存在した交通不能区間、幅員狭小、路線屈曲等の問題を解消し、安達太良連峰を周回する他路線との結合を図るため、本件県道の改良を昭和五五年ころから策定しており、昭和六三年七月ころまでに、本件県道改良工事の概要を作成して、地元地権者らに対して説明するとともに、国庫補助を受け、平成三年度までに実施設計を行い、平成五年度までに本件工事を完了し、本件工事の区間を供用開始し、これにより、本宮町から三ツ森貯水池までの通行がスムーズになり、前記ミドルラインの改良工事や石筵側の地権者の反対が解決されて、本件県道改良工事が進捗すれば、前記の安達太良連峰を周回する道路網が開設される状況に進展したものであり、本件県道改良工事の全体計画の立案、実施が道路管理行政上の合理的な政策決定に基づいて遂行されたことはいうまでもなく、かかる政策遂行の一環として、前記1(三)、(四)で認定したとおり、施工性、走行性、経済性、維持管理等の面から総合的に検討を加えたうえ、本件県道のうち同県安達郡大玉村大字玉井地内を通る部分についてCルートが選択され、トンネル方式で施工することが決定されたものである。

原告らは、福島県政財界の実力者であった小針暦二(以下「小針」という。)のグループ企業である被告会社が本件ゴルフ場開発計画を有していたことから、福島県と談合して、本件ゴルフ場開発計画を実現するため、本件県道改良工事を本件工事を含む形で行うように要請し、福島県において、公費で本件工事を実施し、被告会社がその計画どおりの本件ゴルフ場を計画することができるように便宜供与したものであると主張するが、かかる談合を証明する的確な証拠はなく、右のとおり、行政の裁量の範囲内で道路管理行政上の必要性、相当の合理的な根拠(本件県道改良工事を開削方式で行うことによる工費とトンネル方式で行うことによる工費とを比較すると、前記1に認定のとおりトンネル方式の方が安価であり、事業費の他に、維持管理、走行性、地権者である被告会社からの協力等の点をも含めた総合考慮によれば、トンネル方式が開削方式よりも優れていると考えられないではないこと)に基づいて本件工事が実施されたものというべきである以上、本件工事の結果被告会社の本件ゴルフ場開発計画にとって何らかの利益をもたらしたとしても、これは反射的利益にすぎず、もっぱら私企業の利益を目的として行政の立場から便宜供与したものとまでいうことはできない。

4(一) 道路法五八条一項の原因者とは、道路に関する工事の施行又は維持の必要を生じさせた第三者をいうと解される。前記1で認定したところによれば、前記3で検討したとおり、本件工事は、福島県が前記事業計画の構想等の一環として行政の裁量の範囲内で道路管理行政上の必要性、相当の合理的根拠に基づき策定し実施したものであって、被告会社が、本件工事の施行又は維持の必要を生じさせた第三者とは認められない。

(二) 次に、道路法六一条一項は、制度目的、規定の仕方等からして地方自治法二二四条の道路工事に関する特例であると解するのが相当であり、道路法六一条一項の受益者とは、道路に関する工事により、一般人が受ける利益を超える特別な利益を享受する者をいうと解される。

前記1の認定事実によれば、開削によらずトンネルとすることで本件工事が策定され実施されたことにより、被告会社はゴルフコースを当初の計画どおり実現できることになったもので、本件工事によるトンネル化によって旧道の公用が廃止されその部分もゴルフ場敷地として利用できることとなったのであるから、被告会社は本件工事の結果事実上利益を得る結果となったということはできる。

しかしながら、前記1の認定事実によれば、前記3で検討したとおり、本件工事は道路管理行政上の必要性、相当の合理的な根拠に基づいて施工されたものであり、本件工事による利便は、本件県道の設置目的、利用に鑑み広く交通者に享受されるものと解され、被告会社はその反射的利益を得たにすぎないというべきであるから、被告会社が、本件工事により一般人が受ける利益を超えて特別な利益を享受しているとまでは認められない。

(三) 右(一)、(二)によれば、福島県が被告会社に道路法五八条一項、六一条一項若しくは地方自治法二二四条によって、本件工事費用(の全部あるいは一部)について負担金を賦課することはできず、受益金を徴収しないことが違法であるとは認められないから、右金員についての福島県の損失は認められない。

また、右(二)のとおり、被告会社が本件工事の結果事実上利益を得たことは認められるものの、本件工事は道路管理行政上の必要性、相当の合理的な根拠に基づいて施工されたものであるから、福島県が本件工事によって損失を被ったとも、被告会社が不当利得したともいうことはできない。

四  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・生島弘康、裁判官・髙橋光雄、裁判官・吉井隆平は転官のため署名押印できない。裁判長裁判官・生島弘康)

別紙工事目録<省略>

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